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レビュー

 民俗学から出発した我妻監督は、閉じられた共同体特有の原初的な共生のあり方を、人びとの暮らしから凝縮した。共同体が社会の変容とともに衰退して行くなか、人間の蠢く生が露呈する。

 遠くかけ離れた波伝谷の暮らしも当然我々と同じ時間軸にあることを忘れてはならない。意識を広げれば思いが共有できる瞬間がある。

        ―映画監督 木下雄介氏(第36回ぴあフィルムフェスティバル公式サイトより

 この作品には「どう壊れたのか」ということは何も記録されていない。「何が壊れたのか…」、失われたものの意味を、ただひたすら問われるのみである。被災地の前後を見てきた一被災者として、私はこの作品を多くの人に見てほしいと感じる。今、この作品が存在し、目にすることができる奇跡を共有してほしい。そして自分が失うことになるかもしれない「日々淡々と繰り返される日常」の価値と幸福の意味を再認識してほしい。

  -リアス・アーク美術館学芸員 山内宏泰氏(3.11映画祭公式サイト「あの人のオススメ」より

 宮城県南三陸町の海沿いに位置する震災前の波伝谷部落を舞台に、人々の営みを映し出す。淡々と綴られた映像は、濃密で生き生きとした人間関 係を描くかたわら原初的共同社会の厳しい側面も浮かび上がらせる。そんな社会も時代とともに変化せざるを得ない現実。正否はない。今を生き、 未来をつくっていく誰しもをふと立ち止まらせ、これからどう生きていくべきなのか、問いかけてくる作品である。

         -ライター 河崎清美氏(3.11映画祭公式サイト「あの人のオススメ」より

 荒削りな部分があるものの、震災前の東北の漁村の暮らしが記録された貴重な資料となっている。自然とともに生きること、地域の中で生きることなど、映像から発せられる現代社会への問い掛けは、震災を経てより際立った。記録=歴史は常に意味が変わりゆくとものだが、色あせない原石の輝きを持っている。何よりも東北沿岸各地で上映会を行ない、各地の厳しい現実と向き合い、また温かな支援で支えられた青年監督の姿が投影された青春映画でもある。

   -一般社団法人対話工房 海子揮一氏(3.11映画祭公式サイト「あの人のオススメ」より

 都市的な生活に慣れきった私たちにとって「三陸海岸に面した小さな集落」は物語の世界でしかなく、そこが「被災地」になる以前の暮らしについて想像することは、もはや現実的ではない。3.11の前日まで確かに存在していた「日常」がリアリティをもって目の前に広がる時、私たちは初めて、失われたものは何かについて考え始めることができる。そう気づかせてくれる映画。

         -ライター 谷津智里氏(3.11映画祭公式サイト「あの人のオススメ」より

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