関係者のコメント
ひとの生き様に魅かれ、ドキュメンタリー映画に恋をし、新たな自分を発見した映画である。
―小林茂(ドキュメンタリー映画監督)
この映画には、かの小川紳介にも佐藤真にも撮ることができなかった“むら”の姿が描かれている。
―本田孝義(映画監督)
この135分に詰まったものを言葉にしようとすると零れ落ちてしまう魅力が、映像の一つ一つで語られている。入魂の一作。圧巻の記録映画だった。
―小原治(ポレポレ東中野スタッフ)
震災を描くことは辛い。長い歳月をかけて積み上げられてきた人々の営みが、ほんの一瞬で奪い去られてゆく。
我妻和樹は、たったひとりで自ら撮影した映像を編み上げた。ここに破壊のシーンは一切無い。破壊される前の日常と、人々の苦悩が塗り込められている。
自然の恵みによって育てられた営みが、自然の力によって無に帰る。人間が歩み続けてきた歴史の重さが、この作品には描かれている。
―安岡卓治(映画プロデューサー)
画面を通して体のなかに入ってくるものは、歴史からすり抜けていく記憶の肌触り。黙々と人が働く時間のなかに、生そのもののリズムがいっぱいにあふれ出る。「労働」とはけして割り切れない日々の仕事。土地(海)と人を結びつけ、後世に繋がる絶えない営み。ひとりひとりの人生を通した動きが生み出すダイナミズムから、いま社会が離れつつあることを、この映画は美しく、かなしく描き出す。
―舞木千尋(ドキュメンタリー映画配給)
映画のなかで「いい映像ばかり残してけろでば」と作家は言われる。津波によってあまりにも多くのものが失われた現在、残されるべき“良い映像”とは何だったのか私にはわからない。ただ、笑い声の絶えない祭も、人の欲を吐露する老漁師の姿も、すべてがあの土地の生きた光景であり、この映画はそれに誠実に向き合った彼の答えなのであろう。
―小川直人(第13回山形国際ドキュメンタリー映画祭「ともにある Cinema with Us 2013」コーディネーター)
「被災する」ということの本当の意味を知りたければこの作品を見てほしい。日々淡々と繰り返す日常が突然終わる。この作品に映し出された全ての事象を反転した姿、それが東日本大震災の本当の姿である。今、この作品が存在し、目にすることができる奇跡を共有してほしい。そして自分が失うことになるかもしれない「退屈な日常」の価値と幸福の意味を再認識してほしい。
―山内宏泰(リアスアーク美術館学芸係長)
ドキュメンタリー『波伝谷に生きる人びと』の魅力は登場人物のムンムンするような人間の存在感だ。いつの間にか一人ひとりが昔からの友達のように思えて来て、明日も又逢おうな、又呑もうな・・・と挨拶を交わし合うようにシーンが展開する。
小さな漁村の普通の人々の普通の日々・・・。我妻監督は、見事にその空気のようなものを掴まえている。「普通を誰も教えてくれない・・・」波伝谷が語りかける「普通」に耳を澄ましたら、少しだけ世界が見えてくるかもしれない。
―伊勢真一(映画監督)
三陸の自然に対峙し恩恵を受けながら、そこに生き続ける。この映画を観ていると、登場するひとりひとりの笑顔がいとおしくなる。こういうひとびとが日本の原風景を作り出しているのだなと実感します。続編も楽しみです。
―今井友樹(映画監督)
東北”エイガという、東北6県の小さな自主映画祭で初めてこの作品のパイロット版を観た時、私は涙した。カメラに映る素朴で真っ直ぐな人びと…。部落という狭苦しい人間関係を背負いながらも温かな人びと…。地方の田舎ではよくある何気ない風景が、凄く目に焼き付いた。
我妻監督が幾多の困難を乗り越えて完成させたこの作品には、人生の断片が散りばめられている。それは観た人全ての人生の断片として、後世まで残ることだろう。映像表現の原点がここにある。
―清水川裕一(秋田コネキネマ)
ワカメ、牡蠣、ホヤ養殖を中心とする漁業の町、宮城県の南三陸町の波伝谷。東日本大震災前の地域の暮らしが、愛情をこめて丁寧に描かれる。この映画の魅力は、民俗学的なアプローチにもある。政治を司り、山を共有し、家の改築も共同で行う契約講に入れない家にとって、海の仕事が、この地で生きるための道であったことが明らかになる。食べきれないほどの海の幸を前に、お酒の入った住民は、後継者への想いを語る。ラストの監督の言葉が切ない。
―小西晴子(ドキュメンタリー監督・プロデューサー 『赤浜ロックンロール』)
残念ながら、僕はこの映像の集積を評する言葉も分析する見識も持ち合わせていない。僕に分かったのは、波伝谷に生きた人びとは素敵だったということと、その笑顔のある部分は、既に失われてしまったということだ。しかし、たとえどのような悲しみが訪れようが、それでも暮らしは続いていく。そう思うと、これからの波伝谷の行く末を、幾許かの希望を持って見守りたいという気持ちにさせられる。実はそういう点にこそ、この映像の真の魅力があるのではないだろうか。
―菊田裕樹(ゲーム音楽家 『聖剣伝説2・3』『シャイニング・アーク』)
黙々と働く「日常」と、ハチャメチャな「非日常」。それを繰り返しながら、地域を守り続けてきた人たちの存在について、私は考えさせられた。そこにあるのは、派手で夢のある「幸福」とは違うかもしれない。それでも、波伝谷の人たちは、(津波で命を失った方も含めて)深く静かな幸福を感じていたように私は思う。そしてその幸福な人たちが、波伝谷を離れようとする我妻監督に送った言葉は…。涙なしに見ることが難しい。
―山中礼二(グロービス経営大学院教員)
民俗学から出発した我妻監督は、彼にしかできないその方法で、人びとの暮らしを映像に凝縮した。その映像には、彼が一途に波伝谷を追い続けた10年という時間が刻まれている。
濃密な小世界で繰り広げられる睦まじくも生々しい人間模様。共同体が社会の変容とともに衰退していくなか、人間の蠢く生が露呈する。
波伝谷の暮らしが我々と同じ時間軸に存在することをカメラは非情なまでに突きつけるけれども、意識を広げれば思いが共有できる瞬間があると信じている。
―木下雄介(映画監督 『水の花』)
波伝谷は生きつづける。その地に根づく人たちの、それぞれの人生の、ほんの小さな1場面の連続が、波伝谷という土地の未来を感じさせてくれた。
我妻さんは本当に人間が好きだぜ!そんな我妻さんがおれも好きです。
―渡辺大知(黒猫チェルシー、俳優)
震災発生以来、私は南三陸町に通っている。支え合いながら生きる人々の昔ながらの習俗が美しい。豊漁、豊作の時には食べ物をお裾分けし、子どもたちは地域皆で育てる…。元々経済的に厳しい地域だが、人々の「幸せ」の実感は都会人より強く見える。
震災前の南三陸町を撮った映画『波伝谷に生きる人びと』は、そんな三陸の、時に煩わしくても有難い《地縁》の濃さ=経済至上主義に陥った日本の都会が失った価値観を、見事に捉えている。
ここにあるのは、日本の原風景――。
彼らは《大家族》だから、震災に立ち向かえるのだ。
※短縮版
この映画は、三陸の、時に煩わしくても有難い《地縁》の濃さ=経済至上主義に陥った日本の都会が失った価値観を、見事に捉えている。彼らは《大家族》だから、震災に立ち向かえるのだ。
―榛葉健(ドキュメンタリー映画監督 『うたごころ』シリーズ)
この映画はいわゆる「震災映画」ではない。あえて言うなら、震災「前」映画だ。飄々とした若者だからこそ撮れた、地域の人々の飾らない姿。民俗学を学んだ若者だからこそ撮れた、地域の人間模様の複雑さ。各シーンの冒頭に入る取材時期を記したテロップは、まるで失われる日常のカウントダウンのような二重性を持つ。
この作品でしか観ることのできないものを、ぜひしっかりと見つめてほしい。そして、監督に続編を作らせるのだ。
―飯田基晴(映画監督)
我妻くんがたった一人で波伝谷を取材していた2008年、僕もおおぜいのスタッフとともに南三陸町に滞在していた。といっても僕の場合は南三陸の優れたロケーションを映画のために借りただけで、彼のように、その土地に暮らす人びとにキャメラを向けたわけではなかった。
震災からまもなく、かつて自分の映画の撮影時に世話になった南三陸を訪ねようと立ち寄った仙台で、僕は初めて彼に会った。一緒に南三陸に行こうと誘ったところ、丁重に断わられた。そのときの彼の顔が忘れられない。のちに『波伝谷に生きる人びと』を見せてもらって、彼があのとき一緒に来てくれなかった理由がよくわかった。もし逆の立場だったら僕だって断っただろう。土地とのつきあい方がまるで異なる者同士が一緒に行動できるわけがないし、それぞれの痛みも、また大きく異なっていたはずだから。彼はわかっていた。僕は彼からそれを学んだ。そんな我妻和樹という作家が撮りあげた、生きている土地と人間の堂々たる記録が『波伝谷に生きる人びと』である。
―冨永昌敬(映画監督)
宮城県南三陸町の海沿いに位置する震災前の波伝谷部落を舞台に、人々の営みを映し出す。淡々と綴られた映像は、濃密で生き生きとした人間関係を描くかたわら原初的共同社会の厳しい側面も浮かび上がらせる。そんな社会も時代とともに変化せざるを得ない現実。正否はない。今を生き、未来をつくっていく誰しもをふと立ち止まらせ、これからどう生きていくべきなのか、問いかけてくる作品である。
-ライター 河崎清美氏(3.11映画祭公式サイト「あの人のオススメ」より)
荒削りな部分があるものの、震災前の東北の漁村の暮らしが記録された貴重な資料となっている。自然とともに生きること、地域の中で生きることなど、映像から発せられる現代社会への問い掛けは、震災を経てより際立った。記録=歴史は常に意味が変わりゆくものだが、色あせない原石の輝きを持っている。何よりも東北沿岸各地で上映会を行ない、各地の厳しい現実と向き合い、また温かな支援で支えられた青年監督の姿が投影された青春映画でもある。
-一般社団法人対話工房 海子揮一氏(3.11映画祭公式サイト「あの人のオススメ」より)